内閣府戦略的イノベーションプログラム(SIP) 第2期
My-IoTは2018年から始まり2023年の5年間にわたって研究開発された「内閣府戦略的イノベーションプログラム(SIP)第2期」の一つの研究課題「フィジカル空間デジタルデータ処理基盤」の成果です。
フィジカル空間デジタルデータ処理基盤:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100147.html
研究開発責任者は九州大学の井上 弘士 先生(My-IoTコンソーシアム幹事長)であり、NECが開発主担当を、プロジェクトマネージメントをNECの岡山 義光(My-IoTコンソーシアム副幹事長 兼 My-IoTコンソーシアム管理人)が担当しました。
この研究開発の設定として、中小企業の方々が社内設備のIoT化やH/Wとインターネットを連携させた新商品を企画する場合に、外注委託するのではなく、自分たちが容易にシステムを構築することができるようにすることと定義しました。
つまりIoTシステムは外注して構築してもらうものではなく、自分たちの手に馴染む道具と同じく、自分たちで改善し使い続けられていくべきということです。
この実現にまず必要な技術は、自分たちがIoTを構築できるようにするために、習熟が容易な「IoT構築プラットフォーム」であると設定しました。この自分たちで構築と改善を容易にするためのIoT開発プラットフォームが「My-IoT開発プラットフォーム」なのです。
つまり、利用者自身が自分(My)自身で構築できるIoTとして「My-IoT」ということが、その名前に込められたメッセージです。
第一部:なぜMy-IoTは生まれたのか
中小企業でIoT普及が進まない原因は?
IoTという言葉は、日本では2014年から2015年にかけて急速に広まっており、このころは日本では「IoT元年」と言われていました。製造業を中心に広がり始めましたが、中小企業の現場では未だ広まっているとは言えない状況が続いています。
様々な理由が考えられますが、現場の方々からよくお聞きするのは以下のような意見です。
「現状の業務がIoT化できるとは思えない」
「自分たちのシステムは現状でも人手で十分回っているから、IoTを導入する理由が見当たらない」
「IoTを導入しなければならないが、社内に人材がいない」
「IoT導入のコストが心配」
「IoTを導入したいが、上司や現場から投資対効果を示せと言われて取りかかれない」
IoTシステム提供者は、多様化する顧客の要望に対してカスタマイズが必須となることが一般的です。これは一般的にシステムインテグレーション(SI)と呼ばれ、通常のシステム構築では必須とされています。
事務や業務システムなど「ビジネスクリティカルシステム」はSI費用を投資して構築することは一般的ですが、IoTのような実証や検証から始めることが必要なシステムでは、当初から大きな投資をすることは困難です。
実証内容もその方法も利用者の環境や実施したい内容によって千差万別であり、システム提供者が「ビジネスクリティカルシステム」と同様の考え方で、大きな予算を前提とした提案をしても利用者には受け入れられません。
一方、利用者側がIoTシステムを自ら構築するという選択肢は、利用者自身がITリテラシーが豊富であれば問題ありませんが、中小企業においてはとてつもなく高いハードルであり、結果的にIoTは検証段階で断念せざるを得ないといったことが発生しています。
我々はこのようなIoTシステム提供者(画一性)とIoT利用者(多様性)との間に生まれるいわゆるこの「ギャップ」を「IoTギャップ」と呼ぶことにしました。

「IoTギャップ」解消へのアプローチ
この「IoTギャップ」の解消のために、もう少し課題を分解してみると以下のようなことが言えるのではないでしょうか。
IoTとは「現場」を「デジタル」を使って理解し、処理し「新しい知見を得る」「得られた知見から現場の改善」をおこない「新ビジネスを創出する」ことではないか、別の見地からは「現場で人がやっていたことをITの力で代替し、人はもっと高度な知的活動を行える状況」にすることではないかと。
この考え方をさらに深掘りして我々が得られた一つの結論は「結局現場の状況を一番把握しているのは、ITベンダーではなく、自分たちであり、外部の力を借りることはあったとしても、最終的に自分が主体的に実現できるIoTシステムを構築することが出発点」ということでした。
さて、中小事業企業ではIoT担当者を置くことを考えた場合、現実的には以下のような理由でなかなか実際には難しいのではないでしょうか?
・IoT専任者を置くのはなかなか難しいため、社内のIT担当者を兼任させる
・若手や新人に教育をかねて任せる。IoT教育ができる社内メンバーおらず自分で勉強してもらう
・現業務が忙しく、またIoTは新領域の技術のため勉強が必要のため習熟方法に困っている
・コンサルやIT企業に支援してもらったが、膨大な金額がかかり難しい
・実証には現場の協力が必要だがなかなか理解が得られない。投資対効果を先に求められる

技術的な壁の正体:3層構造とベンダー囲い込み
この壁の解決のために、SIPの研究課題を定義しました。
IoTシステムは大まかに3層構造となっており「複数のセンサーデバイス」「センサーを束ねるエッジ(コンピュータ)」「エッジのデータを利活用したりデータをデーターベースとするためのクラウド(サーバー)」によって構成されています。
中小企業の担当者がこの3層すべてについて知識を持ちシステムを構築するのはハードルが高いと言わざるを得ません。そのため、一定の習熟が必要であるものの、この3層構造を簡単に接続してIoTシステムを構築できる「IoT開発プラットフォーム」を研究課題として設定することとしました。
つまり、極力ベンダー非依存としてオープンなシステムを目指すことにしました。SIP第2期当時のエッジコンピューティングを取り巻く環境は以下のようなものだったからです。
・ベンダーの囲い込み戦略:自社のエッジを使わないとセンサーがIoTに繋がらない

一方、クラウドについては多くのセンサーやエッジが接続できるような仕組みを提供していたのですが、使いこなすにはクラウド知識が必須であり、中小企業で構築するのは現実的ではありませんでした。
つまり、中小企業がIoTを使いたい、構築したいと思っても、使いたい仕組みやハードウエアがある場合、その企業のエコシステムに入り込まない(つまり購入すること)と使えない、それができない場合は自分で構築するしかないという状況だったのです。
そこで我々は、このいわゆる「垂直統合型のエコシステム(=囲い込み)」から「水平分散型のエコシステム」への選択肢を提供できるのはオープンコミュニティしかないと考え、我々の取り組みが中小企業を含めたIoT導入の裾野を広げる一助となることを目指しました。
我々の答え:エッジセントリックなオープンプラットフォーム
この課題を解くためには、3つのアプローチが存在すると考えています。
アプローチ1:使用するデバイスベンダが用意するシステムを活用する
アプローチ2:GAFAMと呼ばれた世界的なIT企業の提供するIoTの仕組みを活用する
アプローチ3:センサーデバイスとクラウドを繋ぐエッジで新技術を開発する
我々が採用したアプローチは3です。2018年当時はエッジの重要性が注目されており「エッジセントリック」という概念が出てきていたところでした。
別の側面では、当時のコンピュータ業界は、オンプレミスシステムは、クラウドシステムに置き換わるような動きが世界的に進んでおり、一方では、スマホのようなモバイルデバイスの台頭という状況にありました。
そこで、オンプレミスシステムに強みを持つコンピュータメーカは、センターデバイスやクラウドシステムを繋ぐHubとして新しいコンピューティングモデルを定義することを考えました。
これは、エッジコンピュータという考え方がIoTシステムの主役になれるチャンスと捉えたことと、エッジを現場に置いて電源さえ入れれば、IoTシステムが動作するというわかりやすさは、クラウドリテラシーが乏しい中小企業の方々には魅力的であると考えたのです。

エッジセントリックなIoTエコシステム
My-IoTではエッジセントリックのアプローチを取り、My-IoT対応のエッジコンピュータがあれば、わずか数ステップでセンサーやクラウドに自動的に接続できる仕組みを作りました。IoT利用者がIoTを活用し、アイデアを実現しようとするにはIoTシステム提供者によって開発されたシステムの中から自分に合うシステムを選ぶ必要がありました。
この手法を実現にあたっては、以下の3つのコンセプトを掲げました。
(1)初心者が容易に使えるようなUI(User Interface)を持つこと。たとえば初学者でも馴染みがあるようなWebサイトの操作のような画面であること
(2)エッジのプログラムはセンシングしたデータの加工や分析に必要なものですが、このプログラムについてはノーコードあるいはローコードで開発できること。つまりプログラミングをしないか、あるいはしたとしても非常に少ない量で実現できること
(3)収集してエッジで加工されたデータはGAFAMのようなビッグクラウド企業に送らないと処理できないのではなく、自社のみ保持できるデータ管理システムとすること。


第二部:それは本当に実現できたのか
技術的な実現:大規模実証での証明
この出来上がったMy-IoTプラットフォームの全体像は以下のとおりです。
共通基盤:ユーザやプロジェクト毎に生成される実行基盤(IoTプラットフォームの実態)のエッジへエッジアプリケーションを配信したりエッジアプリケーションを管理する共通基盤
実行基盤:ユーザ単位で持つことが可能なIoTシステムの実態であり、このIoTシステム内のすべてのデータや管理をユーザ自身がマネージメントできる基盤。必要に応じて数時間で簡単に生成可能
つまりプロジェクト単位で簡単に利用者専用のIoTシステム生成したり壊したりすることが可能で、この中のすべてのデータ(エッジアプリケーションやセンサーデータ)は利用者がすべて管理することができるものになっています。
また別の見方で言えば、実行基盤は企業単位やプロジェクト単位で簡単に生成でき、完全に企業側で管理することができる一方で、共通基盤がないと動作しない仕組みとなっており、この共通基盤をMy-IoTコンソーシアムが管理することで、企業側あるいは利用者側の利便性を確保しながらも、全体がマネージドシステムにもなっています。

エッジプログラムを利用者自身が作成する必要があるのですが、世界的に活用しているNode-REDを利用し、Webベースで簡単に習熟できるようになっており、スマホのアプリをいれるようにIoTシステムを構築することができることができます。
このノーコード・ローコードのエッジアプリケーションの開発手法は、利用者が自らIoTシステムを構築する際には欠かせません。さらにIoTの現場にMy-IoTに対応したエッジを置いて、電源をいれるだけですぐにIoTシステムが稼働し始めるので、ベンダーにSIを依頼しなくても利用者が自らIoTシステムを構築できることは「IoTギャップの解消」の解消に寄与したものと考えています。


また管理画面となるダッシュボードは開発者も利用者も同じ画面を共有することができるのため、共同作業がしやすい設計となりました。

研究成果としてのMy-IoTのプラットフォームの完成度や安定性を記載します。
My-IoTは国立大学法人電気通信大学がプライム事業者として採択された、東京都「大学研究者による事業提案制度」採択事業「AIとIoTにより認知症高齢者問題を多面的に解決する東京アプローチの確立」およびその継続事業「認知症高齢者東京アプローチ社会実装事業」のエッジプラットフォームとして採用されました。
東京アプローチ:http://www.tokyo-approach.uec.ac.jp/
この事業では、世界的に類を見ない規模である、都内の協力施設43施設、認知症の方約700人の大規模データ収集を24時間365日約3年間収集し続けることに成功したことで、IoTプラットフォームの信頼性や安定性を示し、東京都からの大きな評価と介護事業者からの注目を得ました。

組織的な実現:企業の壁を超えたオープンな開発体制
My-IoTは発祥はSIPという国家プロジェクトですから、上記の東京アプローチのような大規模プロジェクトとしてプラットフォームとしての有用性を実証しながら、国家プロジェクトの研究開発成果として様々な形で使っていただき、そのフィードバックを得ながら改善を繰り返すということをやり続けました。
この改善を繰り返すというやり方で特に特徴的だったことは、開発主体企業がNECであったにも関わらず、支援する企業の方々は、独立系やスタートアップの人たちだけでなく、富士通系や東芝系の技術者の方々にも改善開発に参加いただいて、時には出席者が30人を超えるような開発会議を毎週実施しました。
開発についても企業の枠を超えて「発注者と受注先」という関係ではなく、皆が「平場でオープンに」という意識で進められるよう留意しました。この「平場でオープンに」というMy-IoTコンソーシアムが掲げる精神をMy-IoTの開発そのものでも実践したわけです。
そして、My-IoTコンソーシアムへ
この実績を踏まえるとともに、「IoTの普及は水平分散型のエコシステムであるべき」として、稼働確認済みのデバイスやシステムを紹介するのではなく、「課題を持つ人たち」と「課題を解ける人たち」を同じ目線で活動できるような場が必要と考え、「My-IoTコンソーシアム」を設立しました。
My-IoTがIoTを利用者自ら簡単に構築することが可能な研究課題の解消をある程度を達成したものの、中小企業の現場では、IoTシステム構築の手前の中小企業ならではの課題があることがわかりました。
それはシステムを構築するために必須である要件の定義、つまり「課題の抽出」と「課題の腑分け」のところでつまづきがあることがわかったのです。
この部分は、中小企業では自己解決しかない状況が普通であり、気軽に相談できる場も必要なことが新しい気づきでした。もちろん「課題の抽出や腑分け」はコンサルに依頼をすれば良いかもしれませんが、そのためのコストを中小企業が負担することは非現実的です。
自分でも解決できない、コンサルを雇うことも難しいという「IoTギャップ」の手前での課題の気づきを得たことで、企業を超えた人間同士として、まるで同僚のように様々な相談も可能であり、実際に構築する際にはアドバイスや支援も受けられる活動体としての「My-IoTコンソーシアム」を活動趣旨としました。
IoTという技術を習熟させるだけではなく、その手前の取り組み、つまり「課題を持つ人」と「課題を解ける人」を繋ぎ、さらに「課題を持つ人」が「自ら課題を解けるようになる」よう支援する場がまずなにより必要という我々の気づきが、現在のコンソーシアム活動に生きています。
DX化や業務のデジタル化、そして何よりも新事業を自社中心で創出し、自分事として育てていく支援をするMy-IoTコンソーシアムのご参加をお待ちしています。
コンソーシアムの活動詳細については、コンソーシアムについてをぜひご参照ください。
